カンガルー産業②カンガルーの頭数
よく、『野生のカンガルーをそんないっぱい獲って大丈夫なの?』という質問を受けます。
一言でいうと、大丈夫なのです。
あまり知られていませんが、カンガルーは世界で最も数の多い野生の大型哺乳類なのです。データが少し古いのですが、2011年のオーストラリア政府の統計では、商業的に捕獲可能なカンガルーの個体総数は約3,400万頭といわれています。
データ引用先:オーストリア政府 環境省の統計データ/Australian Government Department of the Environment:https
日本大学生物資源科学部教授の小林信一先生のレポート『オーストラリアの肉牛産業』によると、オーストラリアで飼育されている牛の頭数が約2,800万頭(2006年時点)で2011年では約2,900万頭になる見通しでした。
つまり、野生のカンガルーの方が、オーストラリアで飼育されている肉牛よりも頭数が多いといことになります。ちなみに、農林水産省による日本の牛の飼育頭数が約145万頭(2012年)、北海道環境生活部環境局によるエゾ鹿の生息頭数が約48万頭(2014年)ですので、その規模の大きさがうかがえます。
わかりやすく言うと、オーストラリア人の人口が約2,200万人(2011年時点)なので、統計的に言えば、オーストラリアではカンガルーよりも人間の方が珍しい生き物なのです。
※東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の人口約3,500万人と匹敵する数。
上記のグラフでは、商業的に捕獲しても良いカンガルーの生息頭数(▲に黒線)、オーストラリア政府によって設定されている捕獲枠(◆に黒線)、実際に捕獲されている頭数(■に赤線)の推移が確認できます。グラフを見ると、カンガルーの生息頭数に大きく影響を及ばさない範囲でオーストラリア政府が捕獲枠を設定し、その中で実際に捕獲していることがわかります。それでも年間約300~700万頭前後捕獲枠が設定されていますから、世界最大規模の野生動物捕獲枠(陸上の大型哺乳類)と言えるのではないでしょうか。政府の管理下の元、統制された組織でないと商業的にカンガルー捕獲ができないのもうなずけます。
上記グラフの1997~2001年の間に頭数の増加があり、2001~2003年までの間に減少しました。しかし、これは大雨や干ばつなどの天候による自然環境の変化が大きな原因として考えられています。その理由は、乾燥地帯に生息するカンガルーはその過酷な自然環境に適応するため、干ばつでは繁殖機能を停止する習性があります。そのため、雨が降らなければ、一定の頭数で推移するのですが、大雨が続くと水に困らなくなりどんどん繁殖するようになります。グラフで見るピークの2001年以降にまた干ばつが続き、増えすぎたカンガルー全てが食べれるだけの餌がなくなり、頭数が激減するのです。
それにしても、2,500~3,400万頭で推移しているカンガルーは一つの地域で見る大型哺乳類としては圧倒的に多い生息頭数です。ではなぜ、カンガルーの個体数はこんなにも増えてしまったのか?カンガルー増加には大きく二つの原因が考えれれます。
1.家畜保護のため、カンガルーの天敵であるディンゴ(野生犬)が絶滅状況に追い込まれたこと。(家畜を襲うディンゴを人間が抹殺)
2.農業用灌漑設備が整備されたこと。(干ばつに左右されなくとも繁殖が可能になった)
つまり、人間がオーストラリアの生態系を破壊したことが個体数増加の大きな原因となっているのです。
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